利便性と引き換えに殺人ラッシュ開始
上野東京ラインが開業しました。便利になった反面、ラッシュが悪化した報告が次々に上がっています。
開業前、この路線は3線(東北線、高崎線、常磐線)が乗り入れる予定になりました。しかし、常磐線のみは品川止まりです。なぜでしょうか。私が以前見た説明は「(列車の色が異なるなどで)乗客の混乱を避けるため」ですが、どうやらこれは方便のようです。
東北・高崎線は既にバイパス路線がある
首都圏在住の方はご存知のように、既に横浜以南と赤羽以北が湘南新宿ラインで繋がって います。今回の上野東京ラインで、横浜~赤羽直通の電車は湘南新宿ラインと上野東京ラインの2系統(実際には京浜東北線もあるので3系統)となります。たとえば、横浜発17時台の東北線方面の時刻表を見ると、湘南新宿ライン系統が2本、上野東京ライン系統が5本の計7本(いずれも小金井または宇都宮行き)ありま す。ちなみに京浜東北線は同じ17時台に16本あります。湘南新宿ラインは総武・横須賀線と線路を共用している関係で本数が少ないのですね。
東北・高崎線直通で特に恩恵を受けるのは尾久・新橋・品川・川崎といったこれまで直通してなかった駅の利用者ですが、そのほかの駅は少なくとも停車駅という意味での恩恵はそれほどありません。
冷遇される常磐線
一方、常磐線は方向の問題もあって上野東京ラインのみとなります。しかし、少ない運行枠を東北・高崎線と分け合っているので、たとえば品川17時台発の常磐線方面は5本です。うち1本は特急、2本は取手止まり、1本は成田線方面で、取手以北に行く普通電車(中距離電車)は17:14発勝田行きしかありませ ん。ちなみにこの勝田行きが平日取手以北に行く最終の普通電車です。
朝に目を向けると、松戸駅7時台で品川まで直通する電車は3本、8時台でも3本です。取手以北から来る電車になるとさらに少なく、朝10時より前に松戸から品川まで直通するのはたった3本です。
常磐線が不遇な理由
このように常磐線、特に取手以北に行く電車が冷遇されているのは、ひとえに電化方式の違いによる車輌形式の問題があることが知られています。
常磐線の中距離電車(取手以北に行く電車、E531系)は交流電化で電車の形式が異なるため、乗り入れがしにくいのです。常磐線のE531系電車が東海道線に乗り入れることは問題ないのですが、東海道線のE231/E233系電車は取手以北に乗り入れることはできません(このように、直通運転で一方の列車のみが乗り入れる形態を片乗り入れといいます)。そのため、常磐線が東海道線に長距離乗り入れると、車輌運用のバランスが崩れてしまうといわれています。
そもそもなんで取手以北の常磐線が交流電化かというと、茨城県石岡市の柿岡地磁気観測所の観測への影響で直流電化が法律(「電気設備に関する技術基準を定める省令」の第43条: 電気事業法に基づく)で規制されているためです。直流は交流に比べて地磁気観測に与える影響が多いため、地磁気観測所から30km圏内では鉄道は交流電化が条件となっています。この法律に基づき、1961年に常磐線が電化された際に交流電化となりました。常磐線沿線住民からしてみれば、その瞬間から様々な制約を受ける「負の遺産」になったわけです。
まずは常磐線営業区間を延長してみては
さて、今回の上野東京ラインの目的の一つにラッシュの混雑緩和があります。確かに、山手線・京浜東北線で最悪の混雑区間であった上野~東京間の混雑は緩和されました。しかし、本当に長期的に見て混雑を分散させたいなら、もっと常磐線側に乗客を振り向けることも考えるべきではないでしょうか。
品川以南への営業運転延長で考えられるのは以下の4パターンです。
- とにかくできるだけ延長して熱海まで
- (湘南新宿ラインと合流する)戸塚まで
- (乗車が増える)横浜まで
- (さらに乗車が増える)川崎まで
この中で1.は片乗り入れ(常磐線の電車は東海道線に入れるが、電化の関係で逆はできない)のため、すぐには難しいかも知れません。でも、せめて川崎まで延長するだけでも効果はあります。というのは、品川~川崎は、東海道線でも最混雑区間の一つであるためです。平成25年の国土交通省の混雑率調査では同区間の混雑率は183% (31区間中ワースト6位)となっています。
少し過去にさかのぼって、平成10年に国土交通省が出した報告書では、東海道線川崎→品川の混雑率は209%と調査対象42区間中ワースト10位。平成27年度推計だと183%でワースト2位です(面白いことにこの混雑率は平成25年の調査値と同じです)。この報告書でわかるのは、他の路線・区間が運転本数増大などで対処しているのに対し、幅広電車の投入のみと、見込まれるな輸送力増強対策が限定的なたことです。本区間は既に線路容量一杯まで電車を走らせていて、編成も最長の15両。土地もないため増線などの抜本的な対策が取れないのでしょう。
今回品川~上野間が常磐線共用になった割に、その分川崎方から来る品川止まりの電車を設定しているというわけではありません。実際、線路容量一杯に使って いると思われる川崎・品川8時台発はどちらも18本(そのすべてが東北・高崎線方面直通)ですが、9時台になると品川発が12本あるのに対し、川崎方から の電車はぐっと減って余裕があります(1時間たった7本です)。まぁ8時台が問題なのでしょうが。
現在、常磐線が品川止まりであることで以前からの東京からの乗客が利用できず、ラッシュ時なのにガラガラという状況が、品川止まりが支持されていない証左 でもあります。まぁ、そうなると常磐線直通を廃してすべて東北・高崎線直通にするという論理も成り立ちますが、東北・高崎線は北行でも湘南新宿ラインとの 合流があるため、常磐線直通を延長したほうが交通量的には平準化できます。
それから、取手以北に直通する普通電車(中距離電車)の割合もあまりに少なすぎるので、せめて取手止まり(快速電車)を延長するべきだと思います。
常磐線の乗り入れを制限するもう一つの理由に「乗客の混乱を避けるため」との説明もありますが、初日の混乱を見る限り「誤乗を防ぐ」という目的なら、あえて見た目に分かりやすい常磐線方面を品川以南に伸ばしても混乱は少ないと思います。むしろ同じ見た目で始発・終着駅も同じなのに新宿に行くのか上野に行くのか分からない東北・高崎線の混乱のほうが深そうです。さらに言うと、取手止まり(緑帯)を中距離電車(青帯)に置き換えることによって、「常磐線方面行き青帯」と理解すればいいのですから、さらに誤乗は減ると思います。
このような議論をするとよく「交直流電車は高コストだから無理」という反論を聞きますが、E531系の製造コストはかなり下がっており、以前ほどではなくなっています。たとえばこちらの調査だと、直流電車と比べて2割程度増でしょうか。
E531のコストはプレス発表をもとにしているようですが、初期のプレス発表時にはグリーン車の計画がなかったので、高額になるグリーン車分の費用が含まれていないとの批判があります。しかし、それを入れても盲目的に高いと騒ぐほどなのか、再検討が必要だと思います。
いまは上記記事にあるように車輌のやりくりがつかないかもしれませんが、長期的に乗客を千葉県~茨城県方面に振り向けることによって、つくばエクスプレスとの競争力確保にもなるかと思うのですが、難しいのでしょうかね。
匿名
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