英語のこと2(Feb. 18, 2001)
今私はここに宣言する。CMUで最も英語ができないのは他でもないこの私であると!
という最弱宣言をしたのも、こちらにきて半年経った今も私の英語は大して進歩していないのだ。理由はいろいろあると思うが、英語に関する専門教育を受けていない、Visiting scholarというのは回りの人たちとの交流が学生ほど多くない、そして何よりも才能がない(痛...)といったところだろうか。
さすがにこのままではまずいと危機感が出てきたので、無理とは知りつつも足掻くことにした。まずはいまどのくらい聞き取れているのかどうか、CNN Headline Newsをcaptionなしで聞いてみる。
....ぜんぜん分からない!
どひゃー。意味どころか何を言ってるのかぜんぜん聞き取れないぞ。以前書いたがアメリカの多くのテレビ番組はcaptionで喋っている内容が画面に出てくる。これに頼りっきりになっていて音からは内容を把握していなかったのだ。どうりで普段学校で他の人が何を言っているのかさっぱり聞き取れないわけだ。
これでは研究にも支障がある。そこで最近私に英語の「先生」ができたので、その指導に従い英語をきちんと習うことにした。
さて、英語をうまく喋れるようになるためには、人の喋っていることから有用なフレーズを「盗む」のがいいと言われたりするが、それは難しい。
人の喋っていることを真似するためには、喋っていることを理解する必要がある。喋っていることを理解するためには喋られている文章を聞き取る必要がある。文章を聞き取るためには文章を構成する単語を聞き取る必要がある。単語を聞き取るためには単語を構成する音を聞き取る必要がある。
そして私は英語の「音」を正確に知らない。なんと遠い道のりであることか! これはもう絶望的に遠い道のりのような気がするが、付け焼刃が利かないことはよくわかっているので何とか最初からはじめてみることにした。でも、おそらく英語の学習という意味では初歩の初歩、ABCから習い始めましょうというレベルではないのか? 分かってはいるつもりだったけどここまで酷いと思い知らされると凹むねぇ。
では、私が現在行っている「英語の初歩の初歩」を挙げてみよう。
pseudo word
英語の音に強くなる練習方法として、"pseudo word"の発音をするというのがある。これは、「子音、母音、子音」から構成される単語を適当に生成して、それをどんどん読んでいく、という練習方法である。この練習の目的は、自分で発音することによって音そのものや綴りと音の相関関係を頭に叩き込むことらしい。要は英語の音を聞き取る回路を脳味噌に作ってやろうということのようだ。ランダムなpseudo wordの生成にはプログラムを使えばいい(これは私の得意分野)ので、早速プログラムを書いた。プログラムが生成した単語は、たとえば次のようになる。
thaush yowl viaty
dex suid maunt
quip niag mursh
nare yerng faizほとんどは辞書に載っていない単語で、中には読み方がよく分からないものもあるが、それでかまわない。どんどん読んでいくというわけだ。大事なのは、何でもいいから発音することなのだが、その発音は英語の音に存在するものである必要がある。そうでないと脳味噌にインチキ回路をどんどん作ってしまうことになる。そして、どんな発音をしているか、自分で意識する必要がある。私の場合、「知らないので適当に発音する」というのが多かった。そして、そういうものはローマ字発音から導きだされる傾向がある。それでも子音の発音は結構前から意識しているのでまだマシなのだが(子音の方が易しいらしい)、問題は母音である。私は英語母音の弁別はほとんどあきらめていたので、ぜんぜん発音できないし、もちろん聞いても区別ができない。たとえば、
cutの"u"
bombの"o"
lemonの"o"はすべて違う音だが、もしかなで書くとすれば、すべて「あ」に近い種類の発音である。日本語表記の「かっと」「ぼむ」「れもん」はすべて原語とはかなり違う音になってしまうが、私はそういう発音しか知らない。いちいちどういう発音でどういう口の動きをするのか教えてもらった。
難しいのは、すでに間違った読み方で覚えてしまっているものだが、これは一生懸命意識して修正していくしかない。私は、なかなか読めないものや間違って覚えているものだけを生成するようにプログラムを修正し、それで練習している。たとえば、上記のpseudo wordのなかで、yowlの"ow"の部分は"owl"や"out"と同じ発音、mauntの"au"の部分は"default"と同じ発音である。私は以前はそれぞれ"ようる"、"まうんと"と読んでしまっていたので、これは完全に間違い。こういったものは意識して修正していかないと直らない。
そこで、生成したpseudo wordを適当に読んでみて、間違っている発音を指摘してもらった。私がかなり大きく間違っていた、またはよく知らなかったのは次の発音である。
(母音)
表記 例 u cut, hut o bomb, cop ou, ow out, owl y by, try ia liable, giant eu deuce au taught, baud ai jail, fail oo booth, noodle (子音)
表記 例 imb climb mb bomb qu query もちろん発音には例外はたくさんあるので、それは個別に覚えるしかないのだが、とりあえずは音の種類はこれだけ、というのが何となく分かればあとはそれのどれかには当てはめて発音すればいいので何とか練習ができる。発音する際に、今発音しているのが英語の音のうちのどれか、ということを(特に発音が怪しいものに関して)意識しながらやるようにしている。
発音記号の書き下し
やることは単純で、「英単語を聞いて、発音記号で書く」だけである。これは私が自主的に(教えてもらったものではなく)行っているものなので、理論的な根拠はない。前項の練習が効果が出ているのか確認するため、といったところだろうか。実際、英語の綴りと発音の間にはたくさんの例外があるので、聞いて綴りに直すのは難しく、発音記号のほうが易しいらしい。
ここで役に立つのはCD-ROMの英語の辞書。私は「研究社 新英和・和英中辞典 CD-ROM版」というのを使っているのだが、ここには相当量の単語に対してnativeの発音が音として記録されている。これを聞いてどんな発音なのか認識するようにした。単語としては、なるべく知らない単語を選ぶ方が知識に引っ張られないので効果的と思う。「音声データつき単語一覧」というところからあまり画面を見ないようにして適当に単語をクリックし、音を出す。これを発音記号で書く。
これをやると、けっこう音の弁別がきちんとできてないことを知って愕然とすること請け合い(苦笑)。たとえば"r"と"l"、"v"と"b"、"m"と"n"、"s"と"th"などなど。
read aloud
read aloudとは音読のことである。ねたとしては授業のreading assignmentが山ほどあるのでそれを使う。
読み方は、大きな単位(1ページとか、論文の1セクションくらい)を、次のように4回読むといいらしい。もし時間がなければ1と3のみでもよい。
- 音読、意味がわからなくてもどんどん読む
- 黙読、どんどん読む
ここでおおよそどんなことが書いてあるのか把握できるとよい- 黙読、1文1文じっくりと意味を把握する
- 音読、全体のまとめで、読みながら意味を把握
私の問題点としては、4回目の音読で再び意味がわからなくなってしまうこと。鳥頭なので覚えられないというのもあるが、3回目でせっかく意味を把握してもそれが日本語と強く結びついた概念として把握されてしまうことに原因があると思う。4回目では完全に理解していなければいけないので、これではだめらしい。
shadowing
テレビやラジオなど、人の喋っていることをそっくりそのまま自分で喋ること。ここでも声を出して実行するのが大事。そして、耳で聞いてから1秒後くらいに喋れるといいらしい。
これはとても難しい。まず、何を言っているか分からないと真似もできない。音が聞き取れていない私には、時々知っている単語が出てくるのでそれを喋る、といったレベルだ。そしてたとえそういった数少ない単語でも、オリジナルの音声が喋った「直後」でないとできない。すぐ忘れてしまうのだ。さらに自分の声でオリジナルの音声をマスキングしてしまうため、次の単語が聞こえない。
これをやりながら意味を把握するなんて夢のまた夢といった感じだ。
とまぁ、いろいろなことをやりながら何とか英語ができるように努力をはじめたのだが、いまのところまだはっきりとした効果は出ていない。
これらの音声を含む練習は、とにかく英語を聞いたときにかかる、耳で聞いて単語に直すところまでの処理負荷を下げるためにあるという。処理としては、そのあと単語を組み合わせて意味を把握するという流れになる。しかし単語を把握するまでの処理に負荷がかかりすぎるため、たとえ単語が聞き取れていても文章を再構成する作業に脳味噌を割り当てられないのだ。そのため、結局聞き取りができない、ということになる。コンピュータで言えば、音声認識にほぼ100%のCPUを使ってしまっているので、意味を把握するプロセスにCPU時間を割り当てられない、といったところだろうか。